従業員の健康診断って本当に義務なの?会社が追うべき範囲や必要な社内体制も解説

従業員の健康を守ることは、企業にとって単なる責任以上の重要な経営課題となっています。

労働安全衛生法により、企業には従業員に対して健康診断を実施する法的義務があります。しかし、「小さな会社でも必要なの?」「具体的に何をすればいいの?」と疑問を持つ経営者の方も多いのではないでしょうか。

健康診断の実施は、従業員の健康維持だけでなく、生産性向上や労働災害の予防にもつながり、結果的に企業の安定運営に寄与します。法的リスクを回避しながら、従業員が安心して働ける環境を整えることが、現代の経営においては不可欠です。本記事では、健康診断に関する企業の義務や対象範囲、必要な社内体制について詳しく解説していきます。

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健康診断については下記記事でさらに詳しく解説しています。あわせてご覧ください。
会社がやるべき健康診断とは?健診の費用相場や注意点を徹底解説!

目次

【結論】従業員の健康診断は会社の義務である

従業員の健康診断は、労働安全衛生法第66条に基づいて、企業に課せられた法的義務です。これは企業の規模や業種に関わらず、従業員を雇用するすべての会社に適用されます。

この法的義務には、健康診断の実施だけでなく、結果の記録・保管、従業員への通知、必要に応じた就業上の措置など、幅広い責任が含まれています。違反した場合は労働安全衛生法第120条により、50万円以下の罰金が科せられる可能性があり、企業経営にとって無視できないリスクとなります。

小さな会社も健康診断の実施が必要

中小企業の経営者の中には、「従業員が少ないから健康診断は必要ない」と考える方もいらっしゃいますが、これは大きな誤解。従業員数に関わらず、正社員として常時雇用している労働者に対しては、年1回の定期健康診断の実施が義務付けられています。

また、アルバイトやパート従業員であっても、以下の条件を満たす場合は健康診断の対象となります。

  • 契約期間が1年以上である
  • 週の労働時間が正社員の4分の3以上である

さらに、週の労働時間が正社員の2分の1以上の場合は、法的義務ではないものの、健康診断を実施する努力義務があるとされています。小規模な会社こそ、一人ひとりの従業員の健康状態が事業運営に与える影響は大きく、積極的な健康管理が求められているのです。

従業員の健康診断は経営者の責任

健康診断の実施義務は、労働安全衛生法第66条において明確に経営者の責任として定められています。この法律では、事業者(経営者)が労働者に対して医師による健康診断を実施しなければならないと規定し、労働者も事業者が行う健康診断を受けなければならないとしています。

経営者には単に健康診断を受けさせるだけでなく、以下のような包括的な責任があります。

  • 健康診断結果の適切な管理:健康診断の結果は、個人情報として適切に管理し、5年間の保存義務があります。結果は労働者本人に通知するとともに、異常所見がある場合は医師の意見を聞き、必要に応じて作業の転換や労働時間の短縮などの措置を講じなければなりません。
  • 労働基準監督署への報告:常時50人以上の労働者を使用する事業場では、定期健康診断の結果を所轄の労働基準監督署長に報告する義務もあります。これらの義務を怠ると、前述の罰則の対象となる可能性があるのです。
  • 保健指導の実施:健康診断の結果、特に健康の保持に努める必要がある労働者に対しては、医師や保健師による保健指導を行うよう努めることも求められています。

このように、経営者は従業員の健康を守るための包括的な体制を構築し、継続的に運用していく責任を負っています。これは法的義務であると同時に、従業員の健康と企業の持続可能な成長を両立させるための重要な経営判断でもあるのです。

参照:厚生労働省「労働安全衛生法に基づく健康診断の概要 – 厚生労働省

健康診断を怠ると発生するリスク

従業員の健康診断を適切に実施しないことは、企業にとって多方面にわたる深刻なリスクを招きます。法的な処罰から経営への直接的な影響まで、その代償は決して軽いものではありません。

健康診断の義務を怠った場合に企業が直面する主なリスクは以下の通りです。

  • 行政指導や是正勧告
  • 労働安全衛生法違反として罰金の可能性
  • 健康リスクによる欠勤・離職率の増加
  • 企業イメージ低下につながる影響

行政指導や是正勧告

健康診断の実施義務を怠ると、まず労働基準監督署から行政指導や是正勧告を受けることになります。労働基準監督署は定期的に事業場への監督指導を行っており、健康診断の実施状況も重要なチェック項目の一つ。

行政指導では、健康診断の実施計画の提出や改善報告書の作成が求められます。この段階で適切な対応を行わないと、より厳しい措置に発展する可能性があります。是正勧告書が交付された場合は、指定された期限内に改善措置を講じ、その結果を報告しなければなりません。

特に、労働基準監督署への定期報告義務がある常時50人以上の事業場では、報告書の未提出や虚偽報告も指導対象となるため、より一層の注意が必要です。

労働安全衛生法違反として罰金の可能性も

健康診断の実施義務違反は、労働安全衛生法第120条に基づき、50万円以下の罰金という刑事罰の対象となります。これは行政処分ではなく刑事処罰であり、企業の代表者個人が処罰される可能性もあります。

罰則の対象となる具体的な違反行為には以下があります。

  • 健康診断の未実施:定期健康診断や雇入時健康診断を実施しなかった場合、直接的な法律違反として処罰対象となります。「忙しくて時間がなかった」「費用を削減したかった」といった理由は、法的には一切考慮されません。
  • 健康診断結果の未報告:常時50人以上を雇用する事業場において、労働基準監督署への結果報告を怠った場合も処罰の対象。報告期限を過ぎた場合や、報告内容に虚偽があった場合も同様に扱われます。
  • 必要な措置の未実施:健康診断で異常所見が発見された労働者に対して、医師の意見聴取や就業上の措置を講じなかった場合も違反行為となります。

これらの罰則は企業の信用失墜につながるだけでなく、今後の事業運営にも大きな影響を与える可能性があるのです。

参照:厚生労働省「I 安全衛生管理の基本

健康リスクによる欠勤・離職率の増加

健康診断を怠ることで最も深刻な影響を受けるのは、従業員の健康状態の悪化による生産性の低下。早期発見・早期治療の機会を逸することで、従業員の病気が重篤化し、長期間の休職や退職につながるケースが増加します。

  • 生産性への直接的影響:健康問題を抱えた従業員は、体調不良による欠勤や早退が増え、出勤していても本来の能力を発揮できない状態が続きます。特に中小企業では一人ひとりの役割が重要であり、主要メンバーの長期離脱は事業運営に深刻な支障をきたします。
  • 人材確保コストの増大:健康管理が不適切な職場では離職率が高くなり、新たな人材の採用・教育コストが継続的に発生。経験豊富な従業員の退職は、技術やノウハウの流出も招き、企業の競争力低下につながります。
  • 労働災害リスクの増加:健康状態が把握できていない従業員は、作業中の体調急変による労働災害のリスクも高くなります。これにより労災保険料の増加や、安全管理体制の見直しが必要となる場合もあります。

企業イメージ低下につながる

現代の求職者や取引先は、企業の労働環境や従業員の健康管理体制を重視する傾向が強まっています。健康診断の未実施が明らかになると、企業イメージの著しい低下は避けられません。

  • 採用活動への悪影響:労働基準監督署からの指導や処罰を受けた企業の情報は、インターネットやSNSを通じて急速に拡散される可能性があります。「従業員の健康を軽視する企業」というレッテルが貼られると、優秀な人材の確保が困難になり、既存従業員の士気低下も招きかねません。
  • 取引先との関係悪化:大手企業では取引先選定の際に、労働環境や法令遵守状況を重視する企業が増加。健康診断の未実施は法令違反企業として取引停止や契約見直しの対象となる可能性もあります。
  • 金融機関からの信用失墜:銀行融資の審査では、企業の法令遵守状況も重要な評価項目。労働安全衛生法違反の履歴は、融資条件の悪化や融資自体の拒否につながるリスクもあります。
  • 社会的責任の観点から:昨今のESG(環境・社会・ガバナンス)重視の流れの中で、従業員の健康管理は企業の社会的責任として位置づけられています。健康診断の未実施は、社会的責任を果たしていない企業として、ステークホルダーからの信頼を大きく損なう結果となるのです。

実施が必要な健康診断の種類

企業が実施すべき健康診断には、大きく分けて「一般健康診断」と「特殊健康診断」があります。従業員の職種や業務内容、雇用形態に応じて適切な健康診断を実施することが重要です。

以下の表で、各健康診断の対象者と実施タイミングを整理しました。

一般健康診断の種類と実施要件

健康診断の種類対象となる労働者実施タイミング備考
雇入時の健康診断常時使用する労働者雇入れの際全項目実施必須、省略不可
定期健康診断常時使用する労働者<br>(特定業務従事者を除く)1年以内ごとに1回医師判断により一部項目省略可能
特定業務従事者の健康診断深夜業、高温作業など<br>特定業務に従事する労働者配置替えの際<br>6ヶ月以内ごとに1回一般項目に加え特定項目を実施
海外派遣労働者の健康診断6ヶ月以上海外派遣する労働者派遣前と帰国後海外勤務特有の健康リスクに対応
給食従業員の検便社内食堂・炊事場で<br>給食業務に従事する労働者雇入れの際<br>配置替えの際食中毒予防のための検査

特殊健康診断の主な種類

対象業務実施タイミング主な検査内容
有機溶剤業務雇入れ時・配置替え時<br>6ヶ月以内ごとに1回肝機能検査、尿中代謝物検査など
鉛業務同上血中鉛濃度、尿中デルタアミノレブリン酸など
放射線業務同上白血球数、水晶体・皮膚の検査など
石綿(アスベスト)関連業務同上胸部エックス線、肺機能検査など
高圧室内・潜水業務同上減圧症関連の検査項目など

雇入時健康診断は、新たに従業員を採用する際に実施する健康診断です。この健康診断では、以下の11項目すべてを実施する必要があり、医師の判断による省略は認められていません。

  1. 既往歴及び業務歴の調査
  2. 自覚症状及び他覚症状の有無の検査
  3. 身長、体重、腹囲、視力及び聴力の検査
  4. 胸部エックス線検査
  5. 血圧の測定
  6. 貧血検査(血色素量及び赤血球数)
  7. 肝機能検査(GOT、GPT、γ-GTP)
  8. 血中脂質検査(LDLコレステロール、HDLコレステロール、血清トリグリセライド)
  9. 血糖検査
  10. 尿検査(尿中の糖及び蛋白の有無)
  11. 心電図検査

ただし、新卒採用者が入社前3ヶ月以内に医師による健康診断を受け、その結果を証明する書面を提出した場合は、雇入時健康診断を省略することが可能です。

定期健康診断は年1回、すべての常時使用労働者に対して実施する健康診断。雇入時健康診断と同じ11項目が基本ですが、年齢や健康状態に応じて、医師が必要でないと認めた項目については省略が可能です。

主な省略基準は以下の通りです。

  • 身長:20歳以上の者
  • 腹囲:40歳未満の者(35歳除く)、妊娠中の女性等
  • 胸部エックス線検査:40歳未満で特定の条件を満たさない者
  • 血液検査系項目:35歳未満及び36~39歳の者(貧血検査、肝機能検査、血中脂質検査、血糖検査、心電図検査)

特殊健康診断は、人体に有害な影響を及ぼす可能性のある業務に従事する労働者を対象とした健康診断。一般健康診断の項目に加えて、取り扱う有害物質や作業環境に応じた特別な検査項目が設定されています。

実施頻度は6ヶ月以内ごとに1回と、定期健康診断よりも短いサイクルでの実施が義務付けられているのが特徴。これは、有害業務による健康影響の早期発見・早期対応を目的としているためです。

また、特殊健康診断の結果については、事業場の規模に関わらず労働基準監督署への報告が義務付けられており、より厳格な管理が求められています。

これらの健康診断を適切に実施することで、従業員の健康状態を継続的に把握し、必要な健康管理措置を講じることができるのです。

義務として定められている健診項目

労働安全衛生規則では、健康診断の種類ごとに実施すべき検査項目が詳細に定められています。企業はこれらの項目を漏れなく実施する責任があり、項目の欠落は法令違反となる可能性があります。

雇入時健康診断の検査項目(労働安全衛生規則第43条)

雇入時健康診断では、以下の11項目すべてが必須となり、医師による省略は認められていません。

項目番号検査項目検査内容省略の可否
1既往歴及び業務歴の調査過去の病歴・職歴の聞き取り不可
2自覚症状及び他覚症状の有無の検査問診・視診・触診・聴診等不可
3身長・体重・腹囲・視力・聴力の検査基本的な身体測定・感覚器検査不可
4胸部エックス線検査胸部レントゲン撮影不可
5血圧の測定収縮期血圧・拡張期血圧の測定不可
6貧血検査血色素量(ヘモグロビン値)<br>赤血球数の測定不可
7肝機能検査GOT(AST)・GPT(ALT)・γ-GTP不可
8血中脂質検査LDLコレステロール<br>HDLコレステロール<br>血清トリグリセライド不可
9血糖検査空腹時血糖または随時血糖<br>HbA1c(ヘモグロビンA1c)不可
10尿検査尿中の糖及び蛋白の有無の検査不可
11心電図検査安静時12誘導心電図不可

定期健康診断では、雇入時健康診断と同じ基本11項目に加えて喀痰検査が追加され、年齢等の条件により一部項目の省略が可能です。

項目番号検査項目検査内容省略の可否・条件
1既往歴及び業務歴の調査過去の病歴・職歴の聞き取り不可
2自覚症状及び他覚症状の有無の検査問診・視診・触診・聴診等不可
3身長・体重・腹囲・視力・聴力の検査基本的な身体測定・感覚器検査身長:20歳以上で省略可<br>腹囲:40歳未満(35歳除く)等で省略可<br>体重・視力・聴力:省略不可
4胸部エックス線検査及び喀痰検査胸部レントゲン撮影・痰の検査胸部エックス線:40歳未満で一定条件下省略可<br>喀痰検査:胸部エックス線で異常なしの場合省略可
5血圧の測定収縮期血圧・拡張期血圧の測定不可
6貧血検査血色素量・赤血球数の測定35歳未満及び36~39歳で省略可
7肝機能検査GOT・GPT・γ-GTP35歳未満及び36~39歳で省略可
8血中脂質検査LDL・HDLコレステロール・トリグリセライド35歳未満及び36~39歳で省略可
9血糖検査血糖値・HbA1c35歳未満及び36~39歳で省略可
10尿検査尿中の糖及び蛋白の有無不可
11心電図検査安静時12誘導心電図35歳未満及び36~39歳で省略可

特定業務従事者の健康診断項目(労働安全衛生規則第45条)

特定業務に従事する労働者には、上記の一般健康診断項目に加えて、従事する業務の種類に応じた特別な検査項目が追加されます。

対象となる特定業務(労働安全衛生規則第13条第1項第2号)

業務の種類追加検査項目例
多量の高熱物体を取り扱う業務・著しく暑熱な場所での業務熱中症関連の検査項目
多量の低温物体を取り扱う業務・著しく寒冷な場所での業務凍傷・循環器系の検査項目
有害放射線にさらされる業務血液検査・皮膚・水晶体検査
土石・獣毛等の粉塵が著しく飛散する場所での業務肺機能検査・胸部精密検査
異常気圧下での業務減圧症関連検査
身体に著しい振動を与える機械使用業務末梢循環・神経系検査
重量物取扱い等重激な業務筋骨格系・循環器系検査
強烈な騒音を発する場所での業務聴力精密検査
坑内での業務じん肺関連検査
深夜業を含む業務疲労度・睡眠関連検査
有害物質を取り扱う業務対象物質に応じた特殊検査

海外派遣労働者の健康診断項目(労働安全衛生規則第45条の2)

6ヶ月以上海外に派遣する労働者に対しては、一般健康診断の全項目に加えて以下の項目が実施されます。

検査項目実施時期検査内容
腹部画像検査派遣前・帰国後腹部超音波またはCT検査
血液検査(追加項目)派遣前・帰国後B型肝炎・C型肝炎等の感染症検査
医師が必要と認める検査派遣前・帰国後派遣先の風土病等に応じた検査

給食従業員の検便(労働安全衛生規則第47条)

事業に附属する食堂や炊事場で給食業務に従事する労働者については、以下の検査が義務付けられています。

検査項目実施時期検査内容
検便雇入れ時・配置替え時赤痢菌・サルモネラ菌等の病原菌検査

これらの検査項目を実施する際の注意点として、以下が挙げられます。

  • 省略基準の正しい理解 定期健康診断で省略可能な項目についても、「医師が必要でないと認める」ことが前提。年齢だけで機械的に判断するのではなく、医師が自覚症状・他覚症状・既往歴等を総合的に勘案して判断する必要があります。
  • 検査精度の確保 各検査項目は、適切な精度管理が行われた医療機関や検査機関で実施すること。特に血液検査や画像検査については、信頼性の高い検査結果を得るための品質管理が重要です。
  • 記録の適正管理 すべての検査結果は健康診断個人票に記録し、5年間の保存が義務付けられています。検査項目の漏れや記録の不備は、法令違反となる可能性があるため注意が必要です。

参照:厚生労働省「労働安全衛生規則(◆昭和47年09月30日労働省令第32号)

会社が追うべき義務の範囲とは

企業が負う健康診断に関する義務は、単に健康診断を実施するだけにとどまりません。労働安全衛生法では、健康診断の実施から結果の管理、事後措置まで、包括的な義務が定められています。これらの義務を正しく理解し、適切に履行することが法令遵守の基本となります。

企業が負う主な義務は以下の通りです。

  • 健康診断の実施義務
  • 条件を満たした短期労働者も対象とする義務
  • 健診結果の通知義務と5年間の保管義務
  • 医師の意見聴取と就業上の措置義務
  • 健診結果報告書を労基署に提出する義務(50人以上の事業所)
  • 受診時間を労働時間として扱う義務

健康診断の実施義務

企業には、労働安全衛生法第66条に基づき、対象となる全ての労働者に対して適切な健康診断を実施する義務があります。この義務は企業の規模や業種に関わらず適用される絶対的な責任です。

  • 雇入時の健康診断
  • 年1回の定期健康診断
  • 特殊健康診断の実施

また、有機溶剤業務や鉛業務など、より有害性の高い業務については、一般健康診断とは別に特殊健康診断の実施が義務付けられています。これらの健康診断は、業務の特性に応じた専門的な検査項目が設定されており、より頻繁な実施が求められています。

条件を満たした短期労働者も対象

健康診断の対象となる「常時使用する労働者」には、正社員だけでなく、一定の労働時間や契約条件を満たすアルバイトやパート従業員も含まれます。雇用形態にかかわらず、以下の条件を満たす労働者は健康診断の対象となります。

以下の2つの条件を両方満たす労働者が対象。

  • 契約期間が1年以上であること(契約期間の定めがない場合を含む)
  • 週の所定労働時間が正社員の4分の3以上であること

正社員の週所定労働時間が40時間の場合、週30時間以上勤務するパート従業員は健康診断の対象。契約期間が6ヶ月であっても、契約更新により1年以上継続して雇用される見込みがある場合は対象となります。

週の所定労働時間が正社員の2分の1以上4分の3未満の短時間労働者については、健康診断の実施が努力義務とされています。法的義務ではありませんが、従業員の健康管理と企業の社会的責任の観点から、積極的な実施が推奨されます。

派遣労働者については、派遣元企業が健康診断の実施義務を負います。派遣先企業は直接的な実施義務はありませんが、派遣労働者の健康状態に関する情報共有や就業環境の配慮については協力する必要があります。

健診結果の通知義務と5年間の保管義務

健康診断の実施後、企業には結果の適切な管理と通知に関する重要な義務があります。これらは労働者の健康情報を保護し、継続的な健康管理を行うための基盤となる責任です。

  • 労働者への通知義務
  • 健康診断個人票の作成・保管義務
  • 個人情報保護への配慮
  • 記録項目の管理

医師の意見聴取と就業上の措置義務

健康診断で異常所見が発見された場合、企業には医師からの意見聴取と、必要に応じた就業上の措置を講じる義務があります。これは労働者の健康を実質的に保護するための重要な責任となります。

労働安全衛生法第66条の4により、健康診断の結果、異常所見があると診断された労働者について、その労働者の健康を保持するために必要な措置に関し、医師の意見を聞かなければなりません。意見聴取は健康診断実施後、遅滞なく行う必要があります。

意見聴取の具体的内容 医師から聴取すべき意見の内容は以下の通りです。

  • 就業の可否についての判断
  • 作業の転換の必要性
  • 労働時間の短縮の必要性
  • 深夜業の制限の必要性
  • 作業環境の改善に関する事項
  • 健康管理に関する事項
  • 就業上の措置の実施:労働安全衛生法第66条の5により、医師の意見を勘案し、必要があると認めるときは、就業場所の変更、作業の転換、労働時間の短縮、深夜業の回数の減少等の措置を講じなければなりません。
  • 措置の記録・管理:実施した就業上の措置については、その内容と実施日を健康診断個人票に記録し、適切に管理する必要があります。措置の効果についても定期的に評価し、必要に応じて見直しを行うことが重要です。

健診結果報告書を労基署に提出する義務(50人以上の事業所)

常時50人以上の労働者を使用する事業場では、定期健康診断等の結果について、所轄の労働基準監督署長への報告義務があります。この報告は行政が労働者の健康状況を把握し、必要な指導を行うための重要な制度です。

・報告義務の対象となる健康診断

  • 定期健康診断(労働安全衛生規則第44条)
  • 特定業務従事者の健康診断(同規則第45条)
  • 歯科医師による健康診断(同規則第48条)

雇入時の健康診断については報告義務の対象外となっています。

健康診断結果報告書は、定期健康診断実施後、遅滞なく提出しなければなりません。一般的には健康診断完了後1ヶ月以内の提出が求められます。報告書は厚生労働省が定める様式(様式第6号)を使用し、必要事項を漏れなく記載する必要があります。

報告内容の主な項目

  • 実施事業場の情報(名称、所在地、業種等)
  • 対象労働者数と受診者数
  • 検査項目別の異常所見者数
  • 要精密検査・要治療者数
  • 事後措置の実施状況

報告書の内容に虚偽があった場合や、報告を怠った場合は労働安全衛生法違反として処罰の対象となります。正確な情報に基づいた適正な報告書の作成・提出が求められます。

受診時間を労働時間として扱う

健康診断の受診時間の取扱いについては、健康診断の種類によって労働時間か否かの判断が異なります。適切な取扱いを行わないと、賃金未払いなどの労働基準法違反となる可能性があります。

雇入時健康診断および定期健康診断については、原則として労働時間として扱う法的義務はありません。これは、一般健康診断が労働者個人の健康管理のための側面も有するためです。

ただし、実務上は以下の配慮が重要。

  • 受診時間について有給休暇の取得を認める
  • 勤務時間の調整や時間単位年休の活用を可能にする
  • 企業指定の医療機関での受診を義務付ける場合は、受診しやすい環境を整える

特殊健康診断については、業務遂行に必要な健康管理として位置づけられるため、受診時間を労働時間として扱う必要があります。これには以下が含まれます。

  • 受診時間に対する賃金の支払い
  • 時間外や休日に受診した場合の割増賃金の支払い
  • 受診のための移動時間も労働時間として算定

企業が特定の医療機関での受診を義務付けた場合、労働者の選択の余地がないため、受診時間を労働時間として扱うことが適切とされています。この場合、受診時間に対する賃金の支払いが必要となります。

健康診断の受診時間の取扱いについては、就業規則に明確に定めておくことが重要。労働者とのトラブルを避けるため、事前に受診時間の取扱い方針を明示し、適切な運用を行う必要があります。

また、健康診断を円滑に実施するためには、労働者が受診しやすい環境を整えることが企業の責任でもあります。法的義務の範囲を超えても、従業員の健康管理を促進するための合理的な配慮を行うことが、結果的に企業の利益にもつながるのです。

健康診断における整えるべき社内体制

健康診断を適切に実施するためには、組織的な体制の構築が不可欠です。法的義務を確実に履行し、従業員の健康管理を効果的に行うためには、明確な役割分担とルール設定、そして継続的な運用体制の確立が求められます。

効果的な健康診断体制を構築するために必要な要素は以下の通りです。

  • 就業規則への明記
  • 役割分担の決定
  • 未受診者への対応ルールの策定

就業規則に明記

健康診断に関する事項を就業規則に明確に記載することは、法的義務の履行と労使双方の理解促進のために極めて重要です。労働基準法第89条では、安全及び衛生に関する事項を就業規則の相対的必要記載事項として定めており、健康診断もこれに該当します。

就業規則には以下の内容を具体的に記載する必要があります。

健康診断の実施義務

  • 会社が実施する健康診断の種類(雇入時、定期、特殊健康診断等)
  • 対象となる労働者の範囲と条件
  • 実施時期と頻度の明示

労働安全衛生法第66条第5項により、労働者には事業者が行う健康診断を受ける義務があることを明記。「従業員は、会社が実施する健康診断を受診しなければならない」といった条文での明示が重要です。

健康診断の受診時間について、労働時間として扱うか否か、賃金の支払い有無について明確に定める必要があります。

役割分担の決定

健康診断の実施には多くの業務が伴うため、組織内での明確な役割分担が不可欠です。企業規模や組織体制に応じて、効率的かつ確実な実施体制を構築する必要があります。

最高責任者としての経営者

  • 健康診断実施に関する基本方針の決定
  • 必要な予算の確保と承認
  • 法令遵守体制の最終責任
  • 重要な判断が必要な事後措置の決定

現場管理者

  • 部下の受診状況の把握と管理
  • 受診拒否者への説得と指導
  • 事後措置が必要な従業員への配慮
  • 業務調整による受診機会の確保

健康診断の実施においては、人事・総務部門が中心的な役割を担うことが一般的です。

実施計画の策定

  • 年間健康診断実施計画の作成
  • 医療機関との契約・調整
  • 受診対象者リストの作成と更新
  • 実施日程の調整と通知

受診管理

  • 受診者の出欠確認と管理
  • 未受診者リストの作成と追跡
  • 受診率の集計と分析
  • 医療機関からの結果受領と管理

事務処理

  • 健康診断個人票の作成・更新
  • 労働基準監督署への報告書作成・提出
  • 費用精算と予算管理
  • 関連書類の整理・保管

産業保健スタッフの役割

産業医

  • 健康診断実施計画への医学的助言
  • 健康診断結果に基づく医学的判定
  • 就業上の措置に関する意見書作成
  • 事業場巡視と健康指導

保健師・看護師

  • 健康診断の実施補助
  • 従業員への保健指導
  • 健康相談の実施
  • 健康管理データの整理・分析

衛生管理者

  • 健康診断実施の企画・調整
  • 産業医との連携
  • 職場環境の改善提案
  • 健康教育の企画・実施

現場従業員の役割

一般従業員

  • 健康診断の確実な受診
  • 健康診断結果に基づく自己健康管理
  • 再検査・精密検査の確実な受診
  • 健康状態の変化に関する適切な報告

安全衛生委員会の活用

50人以上の事業場では、安全衛生委員会を活用した健康診断体制の構築が効果的。

  • 健康診断実施計画の審議
  • 受診率向上のための対策検討
  • 健康診断結果の集団分析
  • 職場環境改善の提案・検討

未受診者への対応ルールを定める

健康診断の受診率を100%に近づけるためには、未受診者に対する体系的な対応ルールの策定が重要です。適切な対応により、法的義務の履行と従業員の健康管理を両立させることができます。

段階的対応フローの確立

第1段階:事前の受診促進

  • 健康診断実施日の2週間前に個別通知
  • 受診の重要性に関する説明資料の配布
  • 受診日程の個別調整対応
  • 管理者による部下への受診勧奨

第2段階:初回未受診時の対応

  • 当日中の欠席理由の確認
  • 代替受診日の調整と提案
  • 書面による受診勧奨の実施
  • 直属上司への報告と協力要請

第3段階:継続的な受診勧奨

  • 人事担当者による個別面談の実施
  • 受診を妨げる具体的要因の把握
  • 受診しやすい条件の個別調整
  • 家族を含めた受診勧奨の検討

第4段階:最終段階の対応

  • 産業医又は嘱託医による面談
  • 就業制限の検討と実施
  • 懲戒処分の検討
  • 安全配慮義務の観点からの措置

具体的対応手順の文書化

対応記録の作成

  • 対応日時と対応者
  • 未受診の理由
  • 実施した対応内容
  • 従業員の反応と回答
  • 次回対応予定日

医学的配慮が必要なケース

  • 持病により特定の検査を受けられない場合
  • 妊娠中で一部検査が制限される場合
  • 宗教的理由により制約がある場合
  • 過去の医療事故等によるトラウマがある場合

法的措置の検討基準

懲戒処分の適用基準

  • 正当な理由なく3回以上受診勧奨を拒否
  • 代替案の提示にも応じない
  • 業務命令としての受診指示に従わない
  • 他の従業員への悪影響が懸念される

就業制限の実施基準

  • 健康状態が不明で安全な業務遂行に不安がある場合
  • 特殊健康診断未受診で有害業務への従事が危険な場合
  • 感染症等のリスクが懸念される業務の場合

受診促進のための環境整備

受診しやすい環境づくり

  • 複数の受診日程の設定
  • 勤務時間内受診の許可
  • 近隣医療機関との連携
  • 健康診断バスの活用

インセンティブ制度の活用

  • 受診率の高い部署への表彰
  • 個人の継続受診に対する評価
  • 健康改善に取り組む従業員への支援

これらの体制整備により、健康診断の確実な実施と従業員の健康管理の向上を実現できます。重要なのは、単なる法令遵守にとどまらず、従業員の健康と企業の発展を両立させる持続可能な体制を構築することです。

健康診断を効率よく運用するコツ

健康診断の実施は法的義務である一方、限られた人的・経済的リソースの中で効率的に運用することが企業にとっての課題となります。適切な外部リソースの活用と運用システムの構築により、コストを抑制しながら確実な健康診断の実施が可能になります。

外部委託による効率化

健診機関との包括契約 複数年契約や団体契約により、1人当たりの健診費用を削減できます。年間受診予定者数に基づく一括契約では、10~20%程度の費用削減効果が期待できる場合があります。また、契約に基づく優先予約枠の確保により、希望日程での受診が容易になります。

巡回健診の活用 健診機関による巡回健診サービスを利用することで、従業員の移動時間を削減し、受診率の向上が期待できます。特に製造業や建設業など、現場から離れにくい業種では効果的。1日で多数の従業員が受診できるため、業務への影響も最小限に抑えられます。

健康診断代行サービス 健診実施の企画から事後フォローまでを一括で委託できるサービスの活用も有効。受診者管理、結果集計、労基署への報告書作成まで代行してもらえるため、人事担当者の業務負荷を大幅に軽減できます。

デジタルツールの導入

健診管理システムの活用 クラウド型の健診管理システムにより、受診者情報の一元管理、受診状況のリアルタイム把握、未受診者の自動抽出などが可能になります。手作業による管理ミスの防止と業務効率の向上が期待できます。

Web予約システムの導入 従業員が自身で健診日程を予約できるシステムの導入により、調整業務の負荷を軽減。24時間いつでも予約変更が可能なため、従業員の利便性も向上します。

電子化による書類管理の効率化 健診結果の電子ファイル化により、5年間の保管義務に対応しながら、検索性と管理効率を向上させることができます。個人情報保護に配慮したセキュアなクラウドストレージの活用が推奨されます。

運用プロセスの標準化

年間スケジュールの固定化 毎年同時期に健診を実施することで、従業員への周知が容易になり、業務計画も立てやすくなります。誕生月に合わせた個別実施よりも、部署単位での一斉実施の方が管理効率は向上します。

チェックリストの活用 健診実施における必要な手続きをチェックリスト化することで、担当者の変更があっても確実な実施が可能。準備段階から事後処理まで、漏れのない対応を確保できます。

部署別責任者の設置 各部署に健診担当者を配置し、部署内の受診管理を委任することで、人事部門の負荷を分散。現場に近い担当者によるきめ細かな受診勧奨も期待できます。

これらの効率化施策を組み合わせることで、健診実施にかかる時間とコストを大幅に削減しながら、法的義務を確実に履行し、従業員の健康管理レベルを向上させることが可能です。特に「Givefit」のような健康管理アプリを活用すれば、健診結果の記録から日常的な健康管理まで一元化でき、継続的な従業員の健康維持をリーズナブルに実現できます。

社員の健康を促進するなら「GiveFit」

従業員の健康診断実施は法的義務であり、企業にとって避けて通れない責任です。しかし、年1回の健康診断だけでは、従業員の日常的な健康状態を把握し、継続的な健康管理を行うことは困難。真の意味で従業員の健康を守り、生産性の向上につなげるためには、健康診断と日常の健康管理を連携させた包括的なアプローチが必要です。

健康診断後の継続的な健康管理の重要性

健康診断で異常所見が発見されても、その後の生活習慣改善や継続的な健康管理が行われなければ、根本的な健康改善は期待できません。また、健康診断の結果が良好であっても、日々の不規則な生活習慣により健康状態は悪化する可能性があります。

従業員の健康を真に守るためには、健康診断による現状把握と、日常的な健康管理による予防・改善の両輪が不可欠。この課題を解決するのが、健康管理アプリ「GiveFit」です。

GiveFitが実現する包括的健康管理

リーズナブルに従業員の健康管理が行えるアプリ 従来の健康管理システムは高額な初期投資や運用コストが課題でした。GiveFitなら、中小企業でも導入しやすいリーズナブルな料金体系で、本格的な従業員健康管理を実現。健康診断の結果管理から日常的な健康データの記録まで、コストパフォーマンスに優れた包括的なソリューションを提供します。

Givefitで従業員の健康管理を行うことで、業務改善につながる 健康な従業員は欠勤率が低く、集中力や生産性も高いことが知られています。GiveFitによる継続的な健康管理により、従業員の体調管理意識が向上し、結果として業務パフォーマンスの向上を実現。健康投資が企業の業績向上に直結する好循環を創出できます。

法的義務から戦略的健康経営へ

健康診断の実施は法的義務ですが、GiveFitを活用することで、単なる義務の履行を超えた戦略的な健康経営が可能になります。従業員の健康状態をリアルタイムで把握し、予防的なアプローチにより医療費削減や生産性向上を実現。健康診断とデジタル健康管理の融合により、従業員も企業も持続的に成長できる環境を構築できます。

従業員の健康は企業の最も重要な資産。GiveFitで、法的義務を超えた価値創造型の健康管理を始めませんか。

村上克利
代表取締役
13年間にわたりパーソナルジム「POLUM」を経営し、幅広い世代・職業層の健康改善をサポート。
身体づくりに合わせ、メンタル面や生活習慣の改善にも注力し、多くの顧客から「続けられる健康習慣」を引き出す指導を行う。

その豊富な現場経験を企業向けの健康経営に応用し、従業員の健康増進と組織の活性化を目的とした健康管理アプリ「Givefit」を開発。

「Givefit」では、個人の健康データをもとにした最適なアドバイスや行動プランを提供。
健康習慣の定着を支援し、企業全体の生産性向上や離職防止に貢献。
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